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2021年、菓子業界における序列が逆転した。エチケット対策や「お口のお供」として長年親しまれてきたガムの市場規模を、グミが抜き去ったのだ。ピーク時は約1300億円に達していたガム市場の規模は、現在は約半分に縮小しているとの報道もある。ガムはなぜ輝きを失ったのか。グミとの勝敗を分けた要因を、書籍『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)から一部抜粋してお届けする。
● 人口が減少するニッポンで、なぜグミは成長しているのか
日本は少子高齢化が進む。総務省が住民基本台帳に基づいて公表する人口動態調査によると、2009年をピークに人口減少社会に入った。人口減少ということは「胃袋」の数が減るということを意味する。
2023年1月1日時点の人口(外国人除く)は前年比80万523人減の1億2242万3038人(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」による)。減少幅は1968年の調査開始以来最大となった。ピークの2009年の1億2707万6183人から465万33145人減った。14年間で静岡県の人口を上回る胃袋が減った計算だ。住民票を持つ外国人は全国で299万3839人と増加傾向にあるが、日本人の減少を補う規模ではない。
● 堅調さを保つ菓子業界
「縮むニッポン」で、食品産業も影響を免れない。前述の胃袋の減少だ。2022年の食料の家計消費支出(家計調査=2人以上の世帯)は実質で前年比1.3%減となっている。エネルギーコストの上昇や値上げが続く一方で、実質賃金が伸び悩んだことで、生活者の節約志向が強まった結果でもある。
ただ、菓子は実質前年比2.5%増と堅調だった。菓子業界はスイーツブームが続いており、年間の消費支出は10年前の7万7779円から2022年は9万4373円と大きく伸びている。全日本菓子協会によると、2022年の菓子の生産数量は195万8887トン。この20年ほどは190万トン台で横ばい。消費額の増加は、菓子業界による高付加価値化の努力もうかがえる。
● 人口減少の影響は免れない
とはいえ、国立社会保障・人口問題研究所は、2056年に人口が1億人を下回り、2059年には日本人の出生数が50万人を割るとの予測を2023年4月に公表している。急速な少子高齢化に伴う人口減少の影響から、菓子業界も免れないのは確かだ。
またまたガムの話で恐縮だが(※)、ガム市場の縮小は人口動態の影響も大きい。「(過去にガムをよくかんでいた)団塊の世代が大量退職して人と会う機会が少なくなり、口臭対策への利用が減ったことも大きい」と、ある菓子メーカーのマーケティング担当者は分析する。
※編集部注:ガム市場の縮小については、同じく本書から抜粋した記事『グミブームの立役者はZ世代だけじゃない!?70代女性まで「ガム派から乗り換えた」と語るワケ』を参照。
団塊の世代とは1947年から1949年にかけて生まれた戦後のベビーブーマーだ。2022年の年間出生数は80万人を割り込んだが、この3年間は毎年260万人を超えた。この世代は消費ブームをけん引し、新しい食べ物にも積極的にチャレンジしてきた。しかし、2024年には全員が75歳以上、つまり後期高齢者となる。72~75歳前後と言われる健康寿命を過ぎ、ほとんどの人が労働市場から「引退」している。さらに、彼ら・彼女らが、かつてに比べ食が細くなっていくのは確かだ。
ガムは、戦後、欧米から新しい文化として入ってきて、団塊の世代とともに成長してきたとも言える。機能性の強化など、需要開拓に取り組んできたものの、主な愛好者たちのライフサイクルと軌を一にした感は否めない。
● ベネフィットが世代間で受け継がれるグミ
一方のグミはどうか。団塊の世代の子どもたち「団塊ジュニア」の幼少期の1980年代に登場し、団塊の世代には及ばないものの人口が分厚い層を取り込んだ。明治の「果汁グミ」の登場で市場が確立され、様々なメーカーが様々な新商品を投入。ジュニア達にとって思春期の「思い出の味」となっていった。ここまではガムの流れと同じだが、グミは親から子どもへと「おいしさ」などのベネフィット(商品から得られる価値、便益)がうまく伝わった点で、ガムと明暗を分けたのではないだろうか。
それを説明する材料としては、前述の各種消費者調査のデータが象徴的だ。つまり、グミを食べているのは「年代では20~30代、ライフステージでは子育て中といった若い層で多い」というデータだ。親の世代が食べたグミを、子どもに買い与えたり、食べさせたりしている実態が浮かび上がる。
実際、あるグミメーカーの担当者は「『果汁グミ』が強いのは、子どもが生まれて最初に食べるグミが『果汁グミ』というところ。調査でも、お母さんが最初に買い与えるグミが『果汁グミ』だというのが非常に多い。その子どもが大人になっても、そのまま『果汁グミ』を食べ続ける。つまりロイヤルユーザーになっていく流れがある」と話す。だから、『コーラアップ』や『果汁グミ』、『ピュレグミ』など、グミにはロングセラーが多いのもうなずける。
もちろん、子どもたちもグミが大好きだ。小学館が発行する小学校低学年女児向け情報誌『ぷっちぐみ』と、少女まんが誌『ちゃお』が実施した「遠足・校外学習」に関するアンケート調査(2022年7月)によると、遠足に持って行きたいお菓子は『ぷっちぐみ』『ちゃお』読者ともに1位は「グミ」(50%、42%)だった。「ラムネ」や「じゃがりこ」「ハイチュウ」などを抑えた。
● 世代間の垣根がなくなる「消齢化」
グミは幅広い層に支持されている。それに関連して興味深い視点がある。それは「消齢化」というキーワードだ。これは博報堂生活総合研究所が30年にわたるデータを基に打ち出したものだ。例えば、「ハンバーグが好き」「超能力を信じる」「夫婦はどんなことがあっても離婚しない方がよい」「木の床(フローリング)が好き」といった問いへの肯定否定の回答は、30年間で大幅に世代間の違いが縮小しているという。
理由はいくつかある。(1)生活インフラの充実により生活者の「できる」が増えた、(2)社会から「すべき」が減り、皆がそれにとらわれずに暮らすようになった、(3)嗜好や関心の面で「年相応」から離れ出した生活者の「したい」が重なった――などが指摘される。
甘いお菓子は、子どもや若い女性が食べるものといった「偏見」にも似たイメージは、完全に消え去っていることをグミ人気は証明している。
また、コロナ禍では「家族の絆」が注目された。家族がそろって食卓を囲むことが増え、共通の話題を探した。Z世代は親世代とも仲が良く、例えば映画『シン・ウルトラマン』や『トップガン マーヴェリック』は親子で観に行くケースも多かった。親世代がノスタルジーを感じ、Z世代は新しさを感じるコンテンツは効率がよい。バラエティーに富むグミも、世代を超えた家族の話題づくりやコミュニケーションのきっかけに打ってつけの材料だった。
● より広い世代を取り込むマーケティング
マーケティングの世界では、ターゲットを絞り込むことが重要とされてきた。「誰に売るのか」が決まらなければ、商品の仕様や価格、流通戦略も決められない。しかし、人口減少社会の中で、特定の世代をターゲットにするだけでは、マスのヒットが生まれないというジレンマもある。だから、より広い層に受け入れられるような仕掛けで、一定のパイを確保することが、食品などの消費財のマーケティングで必要になっている。
● 百貨店の“失敗”に学ぶ
商品のロングセラー化や小売業の持続可能な発展にとって、顧客を次世代につなげていく「承継」戦略がカギを握る。ガムはその承継につまずいた可能性がある。
承継ができなかった典型が百貨店だ。バブル世代までは百貨店に一種の憧れがあった。子どもの頃、親や祖父母に連れて行ってもらうときは、一番良い服を着せてもらい、屋上の遊園地で遊び、帰りは大食堂でお子様ランチを食べた――そんな「良い」思い出があったからだ。
だが、バブル崩壊後の世代(団塊ジュニアも含む)は百貨店に対するそうした別格感は持っていない。親や祖父母に百貨店に連れて行ってもらった思い出はないし、郊外のショッピングモールの方が楽しかったり、おしゃれに目覚め始めた頃の憧れは、百貨店には入っていないビームスやユナイテッドアローズ(UA)だったりしたのではないか。
いまの大学生に「百貨店に行きますか」と聞いても「行かない」との答えが返ってくる。「行くとすればどこの百貨店」と無理して尋ねると、駅ビルの「ルミネ」や「アトレ」だという答えがあがった。そもそも、百貨店という呼び名が死語になっているし、デパートといった呼び方も大学生にとってはダサく聞こえるのかもしれない。
つまり、百貨店の世界観を企業側も伝えられなかったし、顧客である生活者が消費行動として百貨店に次世代を連れて行かなかった(経済的な理由から連れて行けなかった面もある)。デフレ不況も要因だが、1991年に10兆円に迫る規模だった百貨店市場が、今や半分の5兆円台になってしまった根本原因は「承継」戦略の失敗にある。
● グミは「承継」に成功したカテゴリー
その点、グミは「承継」に成功している商品カテゴリーだ。カンロでは、より明確に世代承継を意識した商品戦略をとる。主力の「ピュレグミ」はF1層(20~34歳女性)を狙った商品だが、子ども向けの「ピュレリング」と上質感のある「ピュレグミプレミアム」もラインアップする。「『ピュレグミ』は、立ち上げ当時食べていた方が、ちょうど親世代になってきている。そうすると、自分たちが食べていた『ピュレグミ』だから、安心感を感じてもらえている。『ピュレグミプレミアム』は濃厚なおいしさの『ピュレグミ』。F1層よりも上の層、プチ贅沢をしたい、ちょっとお金にも余裕がある大人の女性をターゲットにしたシリーズとして展開している」と言う。
日本でのグミ登場時に子どもだった世代も、いまや40~50歳代で、食べ慣れた大人が増えた。生まれたときから親しんできた「グミネイティブ」も多い。JMR生活総合研究所の消費者調査では、ライフステージ別では「男性の既婚子なし」でも月1日以上食べる人が多い。このことから、グミの存在感は増しており、ガムの次世代への「承継」を危うくしている様子が透けて見える。
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