長らく社会問題となっている交通渋滞の対応策として、沖縄県那覇市は、新たな公共交通である「LRT」の導入を検討している。
鉄道網が整備されていない沖縄では、地元住民や観光客の移動手段が自動車に集中し、結果として渋滞が常態化している。県民1人当たり年間で約50時間を渋滞により損失しているとの調査結果もある。
LRTは、環境にやさしく効率的な次世代型路面電車システムとして期待を集めている。この記事では、沖縄県が抱える深刻な交通渋滞と解決策として注目されるLRT導入について見ていく。
■沖縄都市モノレールは存在するが…
沖縄県は日本有数のリゾート地だ。観光庁が発表した2023年の統計によると、沖縄県の年間延べ宿泊者数は3030万970人を記録し、47都道府県の中で5位にランクインした。1位から4位までの都道府県は、東京都、大阪府、北海道、京都府となっている。
トップ5の都道府県の中で、沖縄県の特徴は鉄道がないことだ。 そのため、沖縄県を訪れる観光客の主な移動手段はタクシーやレンタカーに偏る。県民の主な足も自家用車であることから、沖縄県内では交通渋滞が社会問題化した。
沖縄県内に鉄道はないものの、沖縄都市モノレールという公共交通は存在する。「ゆいレール」の愛称を持つこのモノレールは、2003年に開業。那覇空港駅を出発して市内都心部を通り、首里駅まで運行していたが、2019年10月に隣市である浦添市にある「てだこ浦西駅」まで延伸された。
その後も主に南方への延伸の構想が持ち上がったが、いずれの検討ルートも操業が赤字となる見通しであり、計画は具体化されていない。
■国も渋滞緩和に動くも、対策が追いつかない
延伸の効果もあってか、沖縄都市モノレールの利用者数は順調に増えてきた。しかし、2020年に実施された国勢調査では、モノレールの利用率は1割弱にとどまる。対して自家用車の利用率は約36%と、モノレール利用率の約3.5倍に及ぶ。
沖縄県の渋滞対策は以前より行われてきたが、その解消を促進するために2012年、「沖縄地方渋滞対策推進協議会」が発足した。国や県、関係行政機関などで構成される同協議会は毎年1~2回の会合を開き、渋滞対策の進捗状況や今後の対応を話し合っている。
主な対策の内容は、渋滞しがちな交差点の車線を増やしたり、新たな道路を整備し交通量の分散を図ったりするものだ。
沖縄県内の道路交通事情に大きな影響を与えるのが、人口や観光客数の変化だ。沖縄県では新型コロナウイルス感染症流行前まで右肩上がりで人口が増加し、2018年までは入域観光客数も増え続けた。
このため、渋滞対策は場当たり的になりがちなのが実情だ。直近で開催された会合の資料を見ると、10年に渡って対策されてきたにも関わらず、「主要渋滞箇所」に指定されている道路のうち半数以上が対策未実施のままだ。
沖縄本島、特に、那覇市とその周辺エリアでは、車や船、飛行機など各種交通が集まっている。そのため交通量が群を抜いて多く、那覇都市圏の主要渋滞箇所数は県全体の66%を占めている。
那覇都市圏では車線の増加や道路ネットワークの整備といった対策のほか、新たな交通機関の導入が検討されている。
注目を集めているのが、次世代型路面電車システムLRTだ。
■LRTで自動車利用減に成功した富山市
那覇市は2024年3月、「那覇市LRT整備計画素案」を公表した。LRTは「Light Rail Transit」の略称であり、日本語での正式名称は「次世代型路面電車システム」。簡単に言うと「路面電車の進化版」といったところだ。
日本では明治時代に路面電車の運行が始まり、今もなお地域の重要な交通手段として機能している。
一方、海外で欧州や中東などの都市の多くではLRTが取り入れられている。LRTは路面電車と比べて低床で床面に段差がないため、バリアフリーの観点で優れている。また、速度も早い。
国内では、富山のライトレールは有名だ。富山市ではこの路線開通によって、沿線地域が活性化したほか、自動車利用が減少する効果が見られたという。
LRTの整備については、県や国交省が支援スキームを組んでおり、地方公共団体や鉄道事業者向けの支援内容をそれぞれ公開している。那覇市がモノレールの延伸ではなくLRTの導入を検討しているのは、こうした支援制度があるためだろう。
建設費は国費を投下する予定で試算されており、支援制度を利用すれば利益試算も事業化の目安を超えるという。
■計画の詳細と今後の課題
2024年時点で、那覇市内で計画されているLRTの導入ルートは、「東西ルート」と「南北ルート」がある。東西ルート(本線)は沖縄県庁北口から沖縄県立南部医療センター付近までの約5キロメートル(所要時間約19分)、南北ルートは真玉橋(まだんばし)付近から新都心までの約5キロメートル(同約17分)となっている。
また、東西ルートには支線として、沖縄県庁北口から北西の若狭海浜公園付近までの約1キロメートルを整備する計画もある。
東西ルートの本線および支線を先行整備する予定で、停留場は約500メートル間隔で設置する考えも示された。利用者数については、東西ルートと南北ルート、支線を合わせて1日あたりの利用者数が約2万1900人になると試算されている。
一方、LRTは既存の4車線道路のような幅員の大きい道路に導入するため、必然的に道路の車線が減少する。そのため、渋滞悪化の懸念も挙がっているのが事実だ。
那覇市はこの影響についても言及しており、車線を減らす代わりに自家用車から公共交通への利用転換を促す施策を行うとしている。
ただし、これはあくまで素案であり、決定事項ではないことに留意すべきだ。今後は公共交通事業者などとの協議やパブリックコメント等を経て整備計画の正式版を策定する。
那覇市は2026年度末までに正式版の策定を目指しており、今後の協議の行方に注目が集まる。