ステランティスは世界の自動車大手で初めて、中国ブランドのEVを中国以外の自社工場で生産する。写真は同社のカルロス・タバレスCEO(ステランティスのウェブサイトより)/>
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が中国製EV(電気自動車)に対して高率の追加関税を課すと(6月12日に)発表したのを受け、中国の自動車メーカーはEVの生産・輸出体制の見直しを迫られている。
そんな中、ヨーロッパ自動車大手ステランティスの異例の決断が注目を集めている。資本提携先の中国のEVメーカー、零跑汽車(リープモーター)の一部モデルを「ヨーロッパのステランティスの工場で生産する」と、カルロス・タバレスCEO(最高経営責任者)が表明したのだ。
タバレス氏の発言は、ステランティスが6月13日に開催した投資家向けイベントで飛び出した。同社は2023年10月、約15億ユーロ(約2528億円)を投じて零跑汽車の株式の約20%を取得している。
■9月から輸入予定だったが…
さらに2024年5月、ステランティスは零跑汽車の(中国市場以外の)海外業務を手掛ける合弁会社「零跑国際(リープモーター・インターナショナル)」を設立し、51%を出資。零跑汽車が中国で生産する2車種のEVを、2024年9月からヨーロッパの9カ国で輸入販売すると発表していた。
しかし欧州委の追加関税の決定を受け、タバレスCEOは計画を直ちに見直した格好だ。なお、ステランティスがヨーロッパのどの工場で、零跑汽車のどのモデルを生産するのかは、現時点では明かされていない。
いずれにしても、これはヨーロッパの自動車大手が中国以外の自社工場で中国ブランドのクルマを生産する、初めてのケースになりそうだ。
(訳注:複数の報道によれば、ステランティスはポーランドの工場で、零跑汽車のコンパクトEV「T03」を生産するとみられる)
欧州委員会は、中国製のEVが不当な補助金の恩恵を受け、ヨーロッパでの販売価格を人為的に低く抑えているとして、2023年10月から調査を継続している。
その一環として、欧州委は3社の中国メーカーを対象にしたサンプル調査を行い、国有自動車最大手の上海汽車集団(上汽集団)に38.1%、民営自動車大手の吉利控股集団(ジーリー)に20%、中国のEV最大手の比亜迪(BYD)に17.4%の追加関税を課す暫定措置を決めた。
それだけではない。欧州委は上述の3社以外の中国製EVにも追加関税を課すとしており、税率は調査に自発的に協力しているメーカーが21%、協力していないメーカーが38.1%となっている。
零跑汽車に適用される追加関税は21%だが、輸入乗用車の通常の関税(10%)と合わせて31%も課税されれば、ステランティスが描いた合弁会社を通じた輸入計画に痛手となるのは必至だ。
■欧州メーカーも追加関税に反発
注目すべきなのは、欧州委の追加関税をめぐり、お膝元のヨーロッパの自動車大手から反発の声が上がっていることだ。
「ヨーロッパ市場のEV需要は減速しており、欧州委の決定は時宜を得たものではない。追加関税は長期的に見て、ヨーロッパ自動車産業の競争力向上の妨げになる」。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループは、6月12日付の声明で率直に批判した。
その裏には、ヨーロッパ市場に輸入されている中国製EVのあまり知られていない実態がある。欧州自動車工業会のデータによれば、ヨーロッパのEV市場における中国製EVのシェアは、2020年の約3%から2023年には20%超に急上昇した。
しかし、これらの中国製EVの大部分は、実はテスラやBMWなどの欧米メーカーが中国工場で生産して輸入したものなのだ。中国メーカーの独自ブランドのEVに限れば、2023年の市場シェアは8%に満たない。
つまり、追加関税の影響を短期的に最も大きく受けるのは、中国からの輸入計画の見直しを迫られたステランティスを含む欧米メーカーなのである。
(財新記者:余聡)
※原文の配信は6月15日