7月8日、日本企業の今3月期第1四半期決算シーズンが7月後半に始まる。写真は4日、都内の株価ボード前で写真を撮る人々(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)/>
Noriyuki Hirata
[東京 8日 ロイター] - 日本企業の今3月期第1四半期決算シーズンが7月後半に始まる。期初の通期計画が総じて保守的と受け止められていただけに、市場では、例年以上に業績の進捗率に注目が集まる。中でも、円安基調を背景に輸出関連企業が順調に利益を伸ばしたとの声が多く、7月序盤の急ピッチな株高は、これらを先取りする動きだった可能性がある。
この段階で、業績予想を引き上げる動きが広がるかは不透明なものの、第1四半期の進捗率が30%を超える企業は今後、上方修正が期待できるとして「買い目線で臨みたい」との指摘が聞かれる。
7月序盤の東京株式市場では、日経平均とTOPIXが取引時間中の史上最高値を更新し、相場全体がかさ上げされた。4―6月のレンジ推移を上抜けした株高局面では「好調な企業決算を先取りする動きもあったようだ」と、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは指摘する。
思惑の軸のひとつは為替の円安だ。多くの企業の期初計画の前提レートより円安が進んだことで、輸出株を中心に利益の押し上げが見込まれている。
日銀の6月短観で示された全規模・全産業の想定為替レートは2024年度通期で1ドル=144円77銭、1ユーロ=155円40銭。一方、4―6月のドル/円は平均で約11円、ユーロ/円は約12円、それぞれ想定レートを上回っており、為替差益の上振れへの期待を誘いやすい。 <上方修正と「進捗率」に着眼>
もちろん、為替の先行きは見通しにくい。為替以外の業績影響も見込まれる。年度序盤の第1四半期から多くの企業が業績予想を引き上げるかは不透明だ。
ただ、こうした環境下でも、高進捗という「実績」が確認される場合、市場では好材料視され得るとニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは話す。
第1四半期の時点では「進捗率25%なら業績は順調と捉えることが可能。これを大きく上回る30%超となれば、9月中間決算に向けて上方修正含みといえる。市場は買い目線になるだろう」と、ニッセイ基礎研の井出氏はみている。
例えばトヨタ自動車の場合、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは「認証不正や品質問題に関連して、生産は落ち込んでいるわけではないが順調とはいえない。コストの方が目立ちそうだが、それを為替差益が覆い隠すことになりそうだ」という。
トヨタは、1円、円安になれば対ドルで500億円、対ユーロで100億円の利益押し上げ効果があるとされる。一方、同社は、期初の時点で想定レートを1ドル=145円、1ユーロ=160円としていた。季節変動を考慮せず、同社の通期純利益予想を4四半期で等分した上、期間中の為替の上振れ分を上乗せして単純計算すると、4―6月の進捗率は約30%となる。
製造業の多い4―6月決算シーズンに先立って発表された小売各社の3―5月決算では、高島屋やJ.フロント リテイリングといった複数の企業が純利益の上方修正を発表した。
高島屋は、期初予想に対し、純利益の進捗率が38%と大きく上振れていた。6月28日の決算発表の翌日、株価は11%高となり、その後も高止まっている。通期予想の引き上げ後も進捗率は33%と高い水準を維持しており「中間決算での上方修正まで織り込むような強さ」(ニッセイ基礎研の井出氏)と受け止められている。
<堅調な小売業績から思惑波及も>
日経平均への寄与度が高いグロース寄りのハイテク銘柄のうち、電子部品ではAI(人工知能)関連需要への思惑がある。米アップルやマイクロソフトなどは、ネットワークサーバーでなくスマホやPCといった端末でAI処理する「エッジ(末端)AI」に力を入れており、関連部品の需要拡大が見込まれている。
ゴールドマン・サックスは3日付リポートで、村田製作所やTDKなど関連銘柄の目標株価を引き上げた。電子部品各社は、円安による押し上げも見込まれる。
国内の半導体関連株への円安効果は、為替の扱いの違いに応じて異なりそうだ。岩井コスモ証券の斉藤和嘉シニアアナリストは「東京エレクトロンなど前工程の装置メーカーは円建て中心に取引しており、ドル建ての比率が高いディスコやアドバンテストの方が円安メリットがある」とみる。
AIブームを反映した装置需要や先端投資の盛り上がりも注目される。欧米の大手の半導体メーカーの投資は今年後半から来年前半にかけて盛り上がるとみられている上、半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)の1―3月の投資が低調だったとして「4─6月以降、増えてくるはず。明確にポジティブな見通しが確認できるかが重要」と岩井コスモの斉藤氏は話す。
バリュー株の面からは、日銀の追加利上げ観測を背景に銀行株や保険株の下値の堅さが継続しそうだ。自動車は、円高転換への警戒感はくすぶるものの、米国の利下げがはっきりするまで基調的な円安は継続し、業績が支えられるとみられている。
国内消費関連株は、賃上げによる消費拡大、値上げによる売上拡大といったインフレの好循環がみられるかが決算でのポイントになる。三木証券の北沢淳商品部投資情報グループ次長は、先立つ小売決算を踏まえて「その兆しはありそうだ」とみている。 高島屋の幹部は6月29日の決算説明会で「国内消費では、富裕層だけでなくマスマーケットについても伸びが見えてきた」と消費の広がりを説明した。国内顧客は4月時点から物価と賃金の好循環をある程度見込んだ計画としており「ほぼ想定通り」という。 業績予想を上方修正した背景として高島屋は「現在の円安が急激に円高に振れることは考えにくい」との見方を示し、インバウンド売り上げの想定を引き上げた。「中国本土の売り上げの伸長が顕著であり、ここにはまだ伸びしろがある」との見立てを示した。
4―6月決算の企業でも「小売だけでなく、鉄道、宿泊、外食、コスメ、レジャーなどでインバウンド効果や、株高などによる資産効果、賃上げの効果への前向きな見通しが増えてくるかどうか確認したい」と三木証券の北沢氏は話している。
<4万2000円視野、定着はまだ先か>
足元の株価上昇モメンタムを考慮すると、好決算が確認されれば日経平均は4万2000円も意識されてきそうだ。
PERが足元の17倍程度を維持する場合、日経平均が4万2000円に達するには、1株当たり利益(EPS)が4―5%高まる必要がある。SMBC日興証券の5月20日時点の調べでは、会社予想ベースの純利益は今期0.2%減と、会社側が見通しに慎重だった様子がうかがえる。一方、市場の予想は5.1%増となっている。
4―6月決算内容が市場予想に沿ってくるなら、一段の株高への思惑は高まりそうだ。ただ、りそなアセットマネジメントの戸田浩司ファンドマネージャーは、瞬間的に上値を試すとしても、勢いだけの上昇では高値での定着は難しいとみている。仮に第1四半期の数字が良かったとしても「それだけで通期の増益まで全部織り込んでしまうには心もとない」との見方だ。
もっとも、仮に上昇が一時的にとどまっても「元の木阿弥というわけでもない」という。上値が伸びた方が、下値も切り上がってくるとして「今度は4万円が下値めどになり、値固めが進むのではないか」とみている。
(平田紀之 編集:橋本浩)
*見出しを補足し再送します。