平均よりも著しく高い知能を持つというギフテッド。実は「頭がいい」と言われる彼らへの教育に、注目が集まっているという。VUCAの時代に我々が鍛えるべき知性とはなにか。※本稿は、毛内拡『「頭がいい」とはどういうことか――脳科学から考える』(ちくま新書、筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
● 知能指数だけではない ギフテッドの共通の性質とは
一般的に、ギフテッドはIQが130以上であることが多いと言われています。そのスコアは、抽象的な概念や複雑な問題を理解し、解決する能力が優れていることと相関があります。新しい情報や技術を迅速に学ぶことができ、短期間で高いレベルのスキルを習得できるということで、社会で重宝される人となり得ます。
それにプラスして、好奇心が強く、学問や芸術を問わずいろいろなことに興味を持ち、知識を追求し続ける姿勢もあるという尊敬すべきメンタリティがあります。高い集中力を発揮し、長時間にわたって研究や作業に没頭できるのです。さらに、感受性が強く、感情表現も豊かであることが多く、芸術や音楽などの分野で才能を発揮したりもします。
したがって、知能指数だけでは測れない、創造性、リーダーシップ、運動、芸術など、さまざまな分野で顕著な才能を持っている人々と言えるでしょう。
歴史上、今で言うギフテッドな人たちはたくさんいました。いやむしろ、ギフテッドな人たちが歴史を動かしてきたと言うことができるかもしれません。彼らに共通しているのは、独自の視点を持ち、他人とは異なるアプローチで問題を解決したり、新しい発見や革新的なアイディアを生み出したりすることが得意な点です。
だからこそ、自分の意見や価値観を持ち、他人に左右されずに自分の道を進むことができるのかもしれません。
世の中には、ギフテッドの子供たちがその才能を最大限に発揮できるようにサポートするための特別な教育プログラムがあります。個別指導、年齢に応じた学習内容よりも早いペースで学ぶ早修教育(アクセラレーション)、学習内容を深く広く学ぶ拡充教育(エンリッチメント)などが有名です。ギフテッド教育は、子供たちが持つ才能や潜在能力を十分に引き出すことを目的としています。
文科省が2023年度から、ギフテッドの子供たちを支援する事業を始めると発表したことが各種メディアでも取り上げられ、話題を呼びました(以下、太字は文部科学省「「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実」より「児童生徒の発達の支援」から引用)。
米国等においては「ギフテッド教育」として、古典的には知能指数(IQ)の高さなどを基準に領域非依存的な才能を伸長する教育が考えられてきましたが、近年ではこれに加え、領域依存的な才能を伸長する教育や、特異な才能と学習困難とを併せ持つ児童生徒に対する教育も含めて考える方向に変化しています。
また、才能教育というと個人が過度に強調される場合がありますが、例えば国際水準の研究成果も現在は共同研究により生み出されることが多く、学際的な多様な才能が組み合わさることがブレイクスルーにつながることが注目されています。
例えば、単純な課題は苦手だが複雑で高度な活動が得意な児童生徒や、対人関係は上手ではないが想像力が豊かな児童生徒、読み書きに困難を抱えているが芸術的な表現が得意な児童生徒など、多様な特徴のある児童生徒が一定割合存在します。学校内外において、このような児童生徒を含め、あらゆる他者を価値のある存在として尊重する環境を築くことが重要です。
これを読んでみると、ギフテッド支援とは、単に類稀なる才能を持つ子供を見つけて早いうちから投資しようというわけではないことがわかります。
● 頭がよくても幸福とは限らない ギフテッドの生きづらさ
「特異な才能と学習困難とを併せ持つ児童生徒」は一般的に、“2E(Twice-Exceptional)”と言われており、「二重に特別」という意味があります。ギフテッドと言うと、完全無欠なスーパーマンのようで、人生をおくるのがイージーなのかと思いきや、実は生きづらさに苦しんでいると言うのです。
ギフテッドな人たちが抱える問題の一つとして、他人とのコミュニケーションや社会適応が挙げられます。彼らは、自分の考えや知識が他人と大きく異なることから、孤立感や理解されないという感覚を抱くことがあります。
また、自分に対する期待やプレッシャーが高く、ストレスを感じることが多いとも言います。高い自己要求を持ち、過剰な自己評価や自己批判を行うことも少なくありません。
また、彼らの高い感受性や感情の豊かさが、人間関係のあつれきを生み、生きづらさの原因になることもあります。さらには、好奇心や興味が広範囲にわたるため一つのことに集中することが難しく、多動性や注意散漫が見られることがあります。
結果として、せっかくのギフトを与えられたにもかかわらず、自分の才能や知性を十分に発揮できないこともあるのです。どんなに頭が良くても社会とあつれきを生んでしまっては、幸福というわけにはいかないのです。
ギフテッドだからと言って特別扱いしてもいいわけではありませんが、彼らのような才能を最大限に活かす社会の枠組みが整っていないとも言えます。人間は一人ひとりがそれぞれ尊い存在であり、誰もが自分らしく生きる権利があります。
● 脳は予測を作り出す装置 VUCA時代にどう生きるか
現代は、先の読めない不確実な時代という意味でVUCA時代と呼ばれています。
VUCA時代とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、現代社会が抱える複雑で不確実な状況を表しています。
現代社会は、グローバル化、テクノロジーの急速な進展、環境問題、政治的・経済的な不安定要素など、さまざまな要因によってVUCAの特徴が強まっています。
企業や組織は、これらの変化に対応するために、従来の戦略や経営手法だけではなく、こうした環境下でのリーダーシップや意思決定、柔軟な思考や革新的なアプローチが求められるようになっています。
VUCA時代においては、急速なテクノロジーの進化やグローバル化、政治や経済の不安定さなどが相互に影響し合い、未来を予測することが困難になっています。
そのため、個々人も従来の知識やスキルに固執せず、新しい状況に対応できる、柔軟で創造的な対応力を持つことが重要です。
VUCA時代に必要とされるスキルは、以下のようなものと言われています。
1 柔軟性:変化に適応し、新しい状況や課題に対応できる能力。
2 創造性:新たなアイディアや解決策を生み出す能力。
3 視野の広さ:異なる分野や文化からの知識やアイディアを取り入れ、総合的な視点で問題を捉える能力。
4 コミュニケーション力:他者と効果的にコミュニケーションし、共同で問題解決を行う能力。
5 クリティカルシンキング:情報を分析し、論理的かつ独立した判断を下す能力。
6 自己学習能力:自ら学ぶ意欲を持ち、新しい知識やスキルを継続的に習得する能力。
7 リーダーシップ:チームや組織を導き、目標達成に向けて協力を促す能力。
8 感情知性:自分自身や他者の感情を理解し、適切に対応する能力。
これらのスキルは、数値で表すことができない能力として、まとめて「非認知能力」や「社会情動的スキル」などと呼ばれて話題を呼びました。
このような時代に、物事に粘り強く取り組み挫けない脳の働きのことを、「脳の持久力」と名づけることにします。
AIによる物体認識や自動運転技術の発展と相まって、最近の神経科学では、脳がもっている予測の能力がにわかに注目を集めています。
脳とは、予測を作り出す装置だとさえ言われています。これまで脳は単に、入力に対して適切な応答を返すだけのブラックボックスだと思われていました。しかし、それ以上に複雑な挙動をしていることがわかってきたのです。
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